11 丸葉やなぎ(とらひこ先生への手紙)
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あんまり天気が良かったので山へ行って来ました。 いえね、りんごあけび(ムベ)でも取ろうと思いまして お山の小鳥に先を越されて、 たいした収穫は有りませんでした。 それで早々に山を下り、麓の喫茶店に入り、 はいそうです。 珈琲1杯250円のあの店です。 煙草をくゆらし珈琲をすすっておりますと、 小枝の束を抱えたオジサンが入って来ました。 どうやらなんぞの薬草らしく、居合わせたジイサンと 色白美人のママさんとで薬草談義です。 聞き耳を立てておりますと、どうやらこの人 二山ばかり峠を越した山の村の人らしく、 はいそうです。 先生がお書きになった北の山奥の在らしいのです。 |
なにせ5,6人で満員の狭い店です。私もそのうちに話に加わり、ウラジロガシは胆石によいとか イカリソウは精がつくとか、あの草木はどこの山にあるとか、すっかり打ち解けたのでございます。 そこで、先生が子供の頃、見かけた老翁の売り歩いていたという丸葉やなぎの事をこの人に聞いてみました。 「もしかして丸葉やなぎというのをご存じないですか?」 「知ってるよ、ダレダレの山の岩場にゃぁ、けっこう生えてるよ。」 なんとナントこの人、こともなげにこう言うのです。 先生が子供の頃、もう何のことか解らないと書いておられた丸葉やなぎをこの人知っていたのです。 これにゃぁ私も驚き、嬉しくなり、先生にご報告しなくてはとヨタ文を省みずお便りさせて貰っている次第です。 残念ながら、この人も丸葉やなぎを何に使ったのか、あるいはどんな薬効があるのかということは 解らないとのことでした。 自慢にゃぁなりませんが私、爪の先程の学問もなく無能無才、こんなヒョンな偶然が唯一頼みの生き様です。 それでも又、こんなことから丸葉やなぎの使い道、薬効なんぞが解った日にゃぁ、さっそくにお手紙差し上げます。 追伸 この喫茶店のある山里の辺りは、昔から薄桃紫のシュウメイギクの自生地で、 ちょうど其処ここに咲きみだれている時節でした。 |
注・・3「北山から」をご参照下さい。