23 夢うつつ
夢
お坊さんと山門の所に立って空を眺めていた。
小型のワシタカの仲間が高みで舞っていたので、
「あれはサシバの渡りですかねえ」なんぞとツイ知ったかぶりを言ってしまって、
気障で嫌味な言い方だったなぁと後悔した。
いつの間にか夜になっていた。
山門の下の杉の木の横枝にスーと何かが飛んできて止まった。
ムササビかなと思ったけどなんだか大きな猫のようでもあった。
やわらかでフカフカした長い茶色の毛並みのケモノで大きな丸い目でこちらを見つめていた。
やがて、その猫のようなケモノがいなくなって、同じ場所に若い娘がチョコンと立っていた。
きれいな娘だったが、冷たく美しいというのではなく、なぜか親しく感じられた。
それで気軽に話しかけた。
「あんた、何処から来たんだい?」
娘は両手を広げて、フワリと宙に浮きながら、
「熊野からやってきたよ」と言って、すぐとなりに降り立った。
空を飛べるんだから、本当だろうなあと納得した。
ちょっと不気味で不思議な夢だったけど、まるで怖さがなかった。
現(うつつ)
夢を見て、2,3日して山のお寺へ行った。
だあれもいないお堂の石段に腰掛けていたら、空の高みでワシタカが舞っていた。
このお堂の隅にはミツバチが巣を作っていて、その巣を狙ってクマバチがしつこく攻撃を仕掛けている。
クマバチが近づくとミツバチ達は規則正しく羽をふるわせて威嚇する。
そんな攻防をもう一月ばかり繰り返している。クマバチは攻めあぐねているんだろう。
ガンバレ!ミツバチ、もうすぐ冬だ。
そうそうこのお堂の屋根裏にはムササビも住みついている。
あの夢みたいに猫のようなケモノはやって来なかったが、突然犬がやって来た。
まだら毛の中型の犬で首輪があり、それに引き綱を引きずっている。
人家のある所からはずいぶん遠いのに・・・
一瞬ビクッとしたが、「オイデ!」と言ったら尻尾を丸めて近づいて、頭を触らせた。
精悍な面構えで、オオカミの雰囲気を持っている。
土佐の山里だけで飼い継がれてきた幻のシコク犬って
コイツかも知れないと思った。
空を飛ぶきれいな娘はもちろん現れなかった。
追記(11月12日)
薄暗くなって山の寺からの帰り道、里近くまで下りたと時、犬と歩いている女の人に会った。
アッ、あの犬だ。
車を止めて、話しかけた。
「オクサン、この犬、この前、お寺まで来てたよ」
「そうですか、3日ほど行方知れずになって、心配して捜したことでした」
「アレアレ、お寺まで行ってたんですか・・・」
今日は、この前と全然違う雰囲気で、いい子ぶってしおらしく女の人に寄り添っている。
ヤイ、ワンコウ!役者じゃのう。