とらひこ先生



17 むくろじ(無患子)のある家 2


大きな無患子の木は、
この家から50m程南にあり、
昔はその場所もこの屋敷の一部だったそうです。

無患子の木の実に連れられるように
この家にたどり着きました。

安岡家住宅は、
高知市の東、香我美町山北にあり、
塗塀に囲まれた広い屋敷の中には
鬱蒼とした林があり、小さな流れまであります。
300年以上続くこの家は、
維新の志士などたくさんの人をはぐくみ輩出したといいます。
安岡章太郎の父親の生家としても知られ、
彼の作品にもたびたび登場する家で、
章太郎の「根っこ」のようなものを感じられる場所です。

 いまこの家には84歳になる女性(ひと)が一人で暮らし、
広く古い屋敷を守っています。

素朴で可憐なこの老婦人は、
淡く優しい光になった昔の人達に見守られながら、
ゆるやかな時間の流れの中にいるようでした。
正面の門をくぐり、中庭へ続くところに中門があり、
その脇に榊によく似た木が茂っていました。

「この木は、柞(ゆす)の木と言うそうです。」
「ヒョンの木とも言うそうで、
葉っぱのあちらこちらに虫瘤が出来ましてね、
昔の子供たちは、その虫瘤をヒュウヒュウ吹いて、
笛遊びをしたそうです。」

「軸の木(むくろじ)は、ホラ、あそこにもあります。」
庭の外れを指さした先に、少し小ぶりの無患子の木が
青い葉を風に揺らせていました。
木陰に据えられた大きな桧の切り株に腰を下ろし、
庭の草や木の話、昔の人の事、今の人の事、遠い土地の話など、
涼やかにゆったりと話してくれました。





「柞」という字をメモ書きして、教えてくれた紙片の裏に、芭蕉の句が書き添えられていました。

この秋は なんで年寄る 雲に鳥

「芭蕉は、最後の“雲に鳥”のところを随分苦労して推敲したそうでございます・・・。」






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