犬も歩けば            



  9 ふわぁふわぁ


ふわぁふわぁ

ふわぁふわぁのスポンジを両手いっぱいに抱えて
1年生の妹がニコニコしながら帰ってきた
赤いのも黄いろいのも緑も青もピンクも白も・・・
小学校の売店に並んだふわぁふわぁが虹のように見えたのか
ちょうどその日持たされた集金袋の教材費を全部使っていた

「返してこい!」
叱られて 泣きながら返しに行ったが
途中の林の側でシクシク立ちどうしたという
夕方 ふわぁふわぁを抱え泣きながら帰ってきた
犬を葬った場所

犬が死んで じいさんと山へ埋めに行った
大きくて賢い黒い犬だった
命を終えたものの重さをその時はじめて知った
埋めた場所はじいさんと自分しか知らない




この夏、都会に住むふわぁふわぁの妹が帰ってきた。
子供の頃の想い出話になった。
妹は「返してこい」と叱られたのは両親だというが
叱ったのはオレだ。

それと不思議なことに犬を葬った場所をちゃんと知っていた。
自分の記憶ではじいさん以外誰も知らない筈なのに
確かにじいさんと2人だけで山へ行った。
距離を置いてトボトボと妹は付いてきていたのだろうか・・・。


想い出の時間と景色はブランコみたいにユラユラ揺れている。




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