犬も歩けば            


8 赤いふんどし
            

遠い夏の日・・・
赤いふんどしをはじめてしめた日 
はじめて向こう岸まで泳ぎつけた 
はじめて深みの底の小石をとれた

赤いふんどしは不思議なちからを持っているのかい


  

遠い夏の日・・・
フリチンで泳いでいた 
年上のやつらは黒いキンカクシ

いつもの橋の下の深みで泳いでいたら
下流から見かけぬ奴らが5,6人でやってきた
日に焼け真っ黒けでみんな赤ふんキリリッ



オイラたちのなわばりの水浴び場を
無言でジャバッ ジャバッ 堂々と通りすぎた
最後を歩いていたのはオイラと同じぐらいの
チビスケ
そいつがフリチンのオイラを見てニヤリと笑った

日頃えらそうにしていた年上の悪ガキ達も斜めに
見ながらうつむいて見送った

赤ふんたちはとてつもなく強そうに見えた

雷にうたれたみたいな衝撃がみんなに走った 

 

そして 次の日からみんな赤ふんをしめた 

右端がツグジ 年上もしめた

ちびっこもしめた 
まじめっこも日をおかずしめた

その夏 みんなが赤ふんをしめた




遠い夏の日・・・
赤いふんどしをはじめてしめた日 
はじめて向こう岸まで泳ぎつけた 
はじめて深みの底の小石をとれた

赤いふんどしは不思議なちからを持っているのかい




あの日から
自堕落に何十年も過ぎた

遠い夏の日に帰りたい

よし 帰ろう

明日から赤ふんをしめよう
心でそう決めた

遠い夏の日に帰ろう





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