犬も歩けば            


2 聖のおんちゃんの船

 聖のおんちゃんの船が沈んだ。港の中で夜の間に沈んだそうだ。

Tの港でも一番足の遅い木造の船で、沖でもすぐわかった。

トントントンと歩くように進んだ。

漁師は何度も自分の船の沈む夢を見るという、はりさけそうな不安で眠りから覚めるそうだ。

その朝は何時までたっても覚めない夢だったよ・・・

聖のおんちゃんの船

聖のおんちゃんは90をすぎたお袋と港のそばの小さな家に、2人で住んでいた。

手押し車をついたお袋に寄り添い歩いていた。
 
船が沈んで1年程たって、お袋さんが倒れ、そしてある朝聖のおんちゃんが倒れた。

おんちゃんは地元の病院では手に負えず、高知まで運ばれ助かった。

今、お袋さんは地元の病院に、おんちゃんは高知の病院にそれぞれ入院している。

聖のおんちゃんよ!いまはあの船でトントントンと沖へでる夢を見ているかよ、ガシラもフグもシャカもアジもいっぱい釣りよ・・・。

注・・ガシラ(カサゴ) シャカ(イサギ)

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