犬も歩けば





  15 仙谷

仙谷は遠い山の中

そこは野生ランが多い所で
木に着くミヤマムギラン、ムギラン、オサラン、マメズタラン
岩に着くヒナラン、ウチョウラン
川岸にはナツエビネ、ベニシュスラン
林の中にはボッと灯ったようなムヨウラン

仙谷と本流の出会った辺りは開けた川原
よく晴れた眩しい真っ昼間 そこに座りこむ
聞こえてくるのは川の音、鳥の声だけ
座り続けているとその音も消えて
自分の存在がだんだん溶けていくような気がする
たまらなく不安で寂しくなり
こらえきれずに大声を出してしまう
木も岩も小石も永い時間を閉じ込めていて
なにやら語る気配がするが
こころが貧しく
聞きとれないのがもどかしい

4.5年前、仙谷でクマゲラに似た鳥を見た。
それは鳩より少し大きく、全身真っ黒で頭の上は見事な深紅。
バザバサと飛んできて、すぐ近くの木にとまった。

(オイオイ!そりゃあ無茶苦茶な常識外れだゼ!)
(北海道か東北の一部にしかいない鳥だゼ。)
(またお得意の幻か昼の夢でもみたんだろー!)


サテサテ 仙谷で見た鳥は何だったろう・・・

空は続いているし 鳥には翼がある

そう思って、こころにしまっておこう・・・



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