犬も歩けば            


11 鉄塔 (昼の星) 

学校の帰り道の小高い岡に送電鉄塔が立っていました。

最初はその下で遊んでいましたが、
そのうち1段2段と登り始めました。
6年生のN君とH君と年下2人です。
N君が「高圧線に近づきすぎると吸い寄せられるから
半分の高さまでゾ」と目標を決めて、毎日少しずつ登りました。
今日は1段、明日は1段とみんな夢中になって登りました。
しばらくするともう高さへの恐怖もすっかり無くなり
みんなが目標の高さまで楽に登れるようになりました。

ずいぶん昔の秋のことです。

鉄塔にしがみついていろんな話をしましたが、
どんな話をしたか、もう殆ど忘れてしまいました。
ただ一つだけ、N君が「昼でも星が見えるゾ」「教科書に出てた
よ、なぁH君」と言って、みんなで空を見上げて
昼の星の捜しっこをしたことはよく覚えています。

青く深い空を見つめ続けていると
なんだか空の方へ落っこちそうな不安な気持ちになりました。
その感覚は冷んやりした鉄塔の感触と共に
いまでもみょうにはっきり覚えています。

昼の星は見えたような気もするし
見えなかったような気もします。
秋も深くなったころ
とうとう鉄塔組は先生に見つかりました。
朝礼の時、みんなの前に立たされ
「学校始まって以来の大馬鹿モンじゃぁ!」と
えらく叱られたことでした。

ずいぶん遠い昔の秋のことです。


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